vol.9 すべてにFUNを


大切なコミュニケーション

 具体的なトレーニングの指導に入る前に大切なことがあります。それはコーチと子どもたちの間にしっかりとした信頼関係を築くことです。これはトレーニングのプログラムを作る以上に大切な部分です。
 「コーチと選手の間に距離を置いた方が良いのでは?」という考えもあるかもしれません。しかし、サッカーの世界に足を踏み入れたばかりの子どもたちとはある程度の近い距離間での関係を築き、サッカーに親しみ、触れ合うアットホームな雰囲気を作ることも必要です。年齢に関係なく、子供たちの良い「兄貴(姉貴)的存在」になることが理想ではないでしょうか。
 では、どういった関係が理想なのでしょう。それは子どもたちを集合させたときにはっきりと分かります。コーチが話している時に子どもたちがあちこちを向いているようでは良い関係を築いているとは言えません。まず、コーチの言葉にしっかりと耳を傾けることが必要です。そして、子どもたちがコーチの動きをしっかりと見てそれを真似する。これは押し付けではなく、自然にこのような雰囲気を作ることです。単純なことですが、これこそが理想的な関係だと思います。そのためには、褒める時は褒める、怒るときは怒る。子どもたちを受け入れること。つまり認めることが大切になるのです。


トレーニングにFUNを

 「FUN(楽しさ)」はジュニア年代のサッカーにおいて不可欠な要素です。トレーニングでは、低年齢になるにつれてレクリエーショナルな要素が含まれたものが良いでしょう。では、子どもたちにおけるFUNとはなんでしょうか。人それぞれで異なるかもしれませんが、私は表1のようなFUNがあると考えています。

❶ 達成感
何事においても「自分が上達した」、「目標を達成できた」ことは自信につながり、さらにものごとに興味を持てるキッカケとなります。
❷ コミュニケーション
仲間と協力して物事を取り組むことの楽しさです。また仲間やコーチなど、人に認められる喜びもあります。
❸ 興味
サッカーそのものへの楽しみ。これは、プロ選手のプレーに魅了されて興味を持ちはじめることなどが当てはまります。
❹ 好奇心
いままで触れたことのないものに対する楽しさです。
❺ 競争心
人との競争に挑む楽しさです。また、競争に勝ったときの喜びは、子どもたちにとってかけがえのないものとなります。

 これらの要素をトレーニングのなかで取り入れていくことが、成功のカギだと考えています。
 熱心なコーチほど「あれもこれも教えたい!」「少しでも上手にさせたい!」と考えてしまいがちです。しかし、このような時に限って「オーバーコーチング(教えすぎ)」になってしまうケースがあります。コーチが多くのことを一度に伝えようとしても、子どもたちにはそれぞれ「吸収力の許容量」があります。許容量を超えてしまうと、コーチの情熱や好意が逆効果になってしまう傾向があるのです。オーバーコーチングになってしまえば、子どもたちが拒絶反応を示して聞く耳が遠ざかるだけです。
 また、いろいろと伝え過ぎることによって、自らの意思で判断して行動することが少なくなり、自主性が育たなくなることも考えられます。まずコーチは指導を強調するのではなく、観察することから始めることを推奨します。
 これには我慢や辛抱が必要とされます。言いたいことをすべて言うのではなく、心に閉まっておく勇気も必要かもしれません。1日のトレーニングで、子どもたちが飛躍的に変化し、将来が決定するわけではないのです。
 サッカー人生をスタートしたばかりのこの年代では、失敗はつきものです。逆に失敗から学ぶことは多くあります。コーチが求める数パーセントもできないかもしれません。しかし、そこで「うちの子どもたちはダメだ…」とさじを投げるのではなく、我慢をし、冷静に子どもたちをどう修正すればよいか、把握するようにしてください。  また、ジュニア年代では特に言葉よりも行動で示すのも効果的です。コーチが「良い見本」を示すことは、子どもたちのサッカー人生に少なからず好影響が出てくるものです。良い見本を見せること、すなわち子どもたちが目で見て感じることは非常に重要です。

2024.06.09 by Jun Hirano / Funroots



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