vol.6 サッカーを通した人格形成

 長年サッカー現場に携わっていても、子どもたちの変化には毎回驚かされるものです。コーチの指示を待ってからしか行動しなかった子が、いつの間にか自分の判断で行動を起こすように変わっていくのです。サッカーのチカラをあらためて感じる瞬間でした。
 サッカーとは、子どもたちをたくましく育てるツール(手段)であると信じています。サッカーは「学力」には直接的に結びつかないかもしれませんが、心身ともにたくましく育てることができるでしょう。身体的な刺激に加え、時には喜び、悲しみ、悔しさ、驚き、感動、怒り、恐れ、受容し、期待し、信頼し、そして嫌悪するなど、多くの感情が交錯する。この心の動きもサッカーが持っているチカラであり、人格形成の大切な要素となるのです。
 体と心がたくましければ、どんな状況でも冷静な判断ができるでしょうし、それらの積み重ねは生きていく上でも糧となります。また、たくましさを持つことによって、仲間の気持ちを理解し、思いやりを育むことができるはずです。


人を育てるさまざまな要素

 子どもたちの脳の発達に関する記事をメディアでもよく見かけます。そのなかで「スポーツ」と「(テレビなどの)ゲーム」中の脳の働きには違いがあるという見解が出ており、ゲームをする子どもに比べ、スポーツをする子どもは前頭前野の働きが著しいというのです。
 前頭前野は他人の気持ちを推測したり、物事を覚えたり、集中や我慢といったものを生み出す働きをつかさどると言われています。こうした研究からも、スポーツを行うことで、思いやりや自制心を持った子どもが育つと裏づけられているのです。

 サッカーにおける「良い選手」を考えた場合、決して「技術」が高ければよいとは思いません。技術力だけでなく”たくましさ”を兼ね備えなくては、成功はできないと思います。それ以外にもコーチの言ったことに対する理解力や応用力、プレーする際の分析力や判断力、そして仲間やスタッフとのコミュニケーション力も欠かせないでしょう。
 単に「技術」をとってみても、ひとり一人が主体性を持って取り組むことが大切です。キックでも、「足のどの部分に当たれば正確に蹴ることができるか」「どのような足の振り方をすればボールが遠くまで飛ぶか」など、成功体験を重ねることが上達への近道になります。
 選手が個別に繰り返し行い、感覚として身につけることが必要なのです。人から教わるのではなく、自分の「うまくなりたい」という向上心がなければ、決して上達できないでしょう。
 このようなことからも、サッカーには子どもたちの成長、人格形成にとって必要なさまざまな要素と密接な関係があることが分かります。

2024.05.07 by Jun Hirano / Funroots



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