vol.8 海外サッカー事情 ~デンマークのキッズサッカー~


小国の改革

 今回は少し視点を変えて、海外における試みを紹介していきたいと思います。今回紹介するのはデンマーク。北欧諸国の中でも最も南に位置し、比較的温暖な環境にあります。国土は日本の九州より少し広い程度。そして人口は約590万人と千葉県の人口よりも少ないという、まさに「小国」と言っても過言ではありません。
 そのデンマークにおいて、サッカーは1980年代まではオリンビックでの好成績はあったものの、それ以外の国際舞台では目立った活躍もありませんでした。それが1984年には久しぶりに出場したヨーロッパ選手権で3位になり、1986年には7大会ぶりにワールドカップ出場。この時は『ダニッシュ・ダイナマイト』と呼ばれる攻撃的なサッカースタイルでデンマーク旋風を巻き起こしたのです。そして、1992年のヨーロッパ選手権。旧ユーゴスラビアの代替出場ながら優勝し、その存在を世界に知らしめました。その後もワールドカップやヨーロッパ選手権の常連国となり、FIFAランキングでは現在21位に位置しているまでに成長をしたのです。
 これらの背景には、デンマークサッカー協会(以下、DBU)を中心としたグラスルーツプロジェクトがあります。それまでエリート選手の育成に多くのチカラを注ぎ、そして勝利至上主義を貫いていましたが、低年齢に向けた多く普及プロジェクトをスタートしたのです。選手育成を行なう上でも、タレント性のある選手がサッカーの世界に入ってこなくては強化を図ることもできないのは当然です。これまで減少傾向にあったサッカー人口が増加傾向に転じた結果、多くの逸材を輩出する循環ができるようになり、サッカー強豪国に肩を並べるまでに至ったのです。
 そして幸運なことに、このプロジェクトを立ち上けたタイミングでラウドルップ兄弟やピーター・シュマイケルなどのスター選手が台頭し、更にサッカー熱が高まったのです。いまとなっては、デンマークのトップリーグに所属する多くの選手たちがこのプロジェクトを経験しているほどです。


普及プロジェクトの発足

 DBUは1980年以降、多くの普及プロジェクトを行ってきました。それらは日本サッカー協会も行っているキッズプログラムと共通する部分が多いです。ここでは以下の通り一例を紹介しましょう。

DBUs Fodboldskole
年に数回、全国各地で行なう短期のサッカースクール。
DBUs fodboldskole
「サッカーの入口」にいる小さな子どもたちに向けた週末プログラム。サッカーに特化したプログラムだけでなく、その他の遊ひの要素を含めたプログラムとなっています。
McDonalds Fodbold Cup
勝敗よりもサッカーをエンジョイできる雰囲気を大切にした大会。
The Girl Rocket
女の子を対象にしたプログラム。女の子にとってサッカーの世界に足を踏み入れるのは少なからず抵抗はあるので、入りやすいような工夫を施しています。

 これらのプロジェクトの中心的存在として位置していたヤン・M・ハンセン氏。彼を中心としたこれらの活動を通し、いまとなってはDBUに31万人(国民の20人に1人)が選手登録するまでに成長しました。JFAの選手登録者数が約83万人(日本では166人に1人)と考えると、普及活動の重要性には頷かされるものです。
 サッカーの垣根を低くすることで広がったサッカー人口。普及活動と選手育成がうまく融合した結果、サッカー強豪国の仲間入りに成功したのがデンマークなのです。


ジュニアコーチの心構え

 ジュニア年代のコーチの方々にぜひ意識してもらいたい10項目を紹介しましょう。これは、デンマーク協会のグラスルーツ部門責任者を務めていたヤン・M・ハンセン氏がまとめたものです。コーチ歴が長くなればなるほど、重要なことを忘れてしまいがちです。私はいつもこの言葉を読み返し、初心を忘れないようにしています。
デンマークサッカー協会によるジュニアコーチの心構え
① 子どもたちはコーチのものではない
② 子どもたちはサッカーに夢中だ
③ 子どもたちはコーチとともにサッカー人生を歩んでいる
④ 子どもたちから求めることはあっても、コーチから求めてはいけない
⑤ コーチの欲望を、子どもたちを介して満たそうとしてはならない
⑥ アドバイスはしても、コーチの考えを押し付けてはいけない
⑦ 子どもたちの身体を守ること。しかし子どもたちの魂まで踏み込んではいけない
⑧ コーチが子ども心になること。子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない
⑨ コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切。しかし自分で考えさせることが必要
⑩ コーチは子どもたちを教え導くことはできる。しかし勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身

2024.05.26 by Jun Hirano / Funroots



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