vol.10 主体性を持って取り組むこと


ルールを守り、敬意を払う

 国際試合などの選手入場の場面で、先頭に立った子どもたちがフェアプレーのフラッグを持って入場し、その重要性を伝えているシーンを目にすることがあると思います。「フェアプレーの精神」もサッカーがここまで大きく発展した大きな要素のひとつだと思います。
 フェアプレーの精神を考える際に大切になるのが、「ルール」でしょう。ルールを守ろうとすることがフェアプレーの精神につながっていくのです。サッカーだけでなく社会全体でもそうですが、ルールがあってはじめて、お互いの個性を尊重することができます。もし、ルールがなかったらサッカーというスポーツも成立しません。
 ジュニア年代の選手が行うサッカーのルールについていえば、特に幼稚園生や小学校低学年ではオフサイドなどの細かいものまでは必要ありません。「相手にケガをさせるようなプレーはしない」、「両チームが公平にプレーする」、「サッカーをしている全員が楽しくプレーできる」といったことをまずはしっかりと理解させ、その上で「手でボールを使わない」などの簡単な約束を理解させる必要があります。
 また、敬意を払うことも大切です。ジュニア年代の大会でも時々見られますが、レフェリーの判定に対してプロ選手の真似をしているのか、両手を広げて不服をあらわにしているケースです。しかし、レフェリーも人間。ミスジャッジはつきものです。
 Jリーグなどでも、選手がレフェリーの判定に不満を表に出すケースが多く見られます。選手が試合中に何度もミスをするように、レフェリーも必ずミスを犯します。まずはその部分を理解させる必要があります。子どもたちにはレフェリーの重要性を伝え、敬意を払うように伝えるべきです。
 同様に、試合は相手チームがあってはじめて成立します。相手選手は「敵」ではありません。相手選手もサッカーファミリーの一員、仲間なのです。相手に対しても敬意を払い、相手を侮辱するような行為は絶対に避けるべきです。そのような場面に遭遇したら、コーチはしっかりと選手をしつける必要があります。
 私はこのような経緯の気持ちを持ち合わせることは、サッカーを取り組む上でも非常に大切なことであると考えています。


個々の動機付けを促す

 グラスルーツのクラブでは、子どもたちの技術レベルはさまざまです。「技術が飛び抜けた子」と「初めてボールを蹴った子」が一緒にボールを追いかけている光景は当たり前のように見られます。
 特に、未就学児や小学校低学年の子どもたちに関してはその傾向が顕著に表れます。それは、運動経験や発育・発達の差などさまざまな要因からくるものです。したがって、子どもたちはいつ「化ける」か、分かりません。だからこそ、コーチは選手の将来を考えることが必要です。
 チームによっては、低学年の選手にもレベル分けをしてトレーニングしているところがあるかと思います。これでは子どもたちの夢や可能性の芽をつぶしてしまいかねません。いろいろな子どもたちが同じトレーニングを行うことで、お互いに多くの刺激を得られると私は考えます。
 では、レベル分けをしないなかで、どのように指導すればよいのでしょうか。まず、子どもたち1人ひとりに目を配り、個人をベースにして課題やテーマを変化させていきます。そして、子どもたち自身が目標を持ってサッカーに取り組む、その意識付けが求められるのです。
 子どもたちが、「楽しい」「うまくなりたい」と思うようになれば、自然とやる気が出るものです。そして、やる気が出たときこそ成長する一番のタイミングです。コーチの大切な仕事は、子どもたちにこのような環境を作ることだと思います。
 何ごとでもそうですが、「楽しさ」や「喜び」は前向きに取り組むために不可欠な要素です。主体的に取り組むことによって、能力をより発揮することにつながるのです。
 子どもたちには生まれ持った才能があります。その才能を開花させられるかどうかは、自身の意識が大きな影響を持ちます。まずは子どもたちに興味を持たせ、意識を高める動機付けをする。強制的にトレーニングをさせるのではなく、「楽しさ」や「喜び」を感じられる魅力的なプログラムを提供する。そのような環境を作り、子どもたちが主体的に取り組む姿勢を持つことによって、より能力を発揮できるようになるはずです。

2024.06.23 by Jun Hirano / Funroots



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