vol.12 ジュニアコーチに必要なこと


技術論だけでなく、人間教育の要素も

 今日ではインターネットを中心に、さまざまな媒体を通して世界各国の情報が飛び交っています。その情報量は、少し気を緩ませると情報におぼれてしまうのではと怖くなってしまうほどです。情報は非常に重要ですが、同時に危険性も持ち合わせています。
 多くの情報を持つことは何物にも変えられない財産になります。しかし、その情報をいかに処理するかが重要であり、うまく処理できないと、誤った知識をうのみにしてしまう可能性をはらんでいます。また、情報が多くなると、保有しているだけで満足してしまい、逆に思考力が落ちるケースも考えられます。
 このような情報社会のなかで、サッカーコーチにも同じことが当てはまります。コーチは常にアンテナを張って情報を求めるだけでなく、その情報に流されない基盤を作ることこそが必要だと思います。そのためには、まずは「コーチングの本質」を振り返ることです。

 「コーチングの本質」とは、個人の価値観によって若干異なりますが、私は子どもたちの「人間教育」だと考えています。 ジュニア年代の選手たちに携わるコーチにとって、当然ながら現場での仕事は手を抜いてはならない部分です。コーチとして子どもたちを預かっている以上、プロもアマチュアも関係ありません。コーチは子どもたちを選べても、子どもたちはコーチを選べないのです。
 コーチの立場(プロかアマチュアかということ)などはまったく関係ありません。どの立場にしろ、子どもたちを預かる以上はしっかりと責任を果たす必要があります。
 ファンルーツではサッカースクールを展開していますが、基本的に子どもたちと触れ合えるのは、週に1~2回のトレーニング時間内だけです。そのなかでどのようにコミュニケーションをとっていくかは、コーチの腕の見せ所といってもよいでしょう。


サッカーを通じた人間形成こそコーチに求められる大きな役割

 コーチは、限られた時間のなかで何かしらのメッセージを伝えなくてはなりません。それは、サッカーに関することだけに限らずサッカー以外の部分でも良いでしょう。
 ジュニア年代のコーチにとって、良い選手を輩出することも重要です。しかし、今かかわっている子どもたちのどれだけがプロサッカー選手になれるでしょうか。そう考えてみると、サッカーの技術論ももちろん重要ですが、それ以上に、1人の人間としての成長を考えなくてはなりません。
 以前にも記しましたが、サッカーは学校の勉強で味わえない貴重な経験ができます。学校教育の場では、これまで知識偏重の傾向があったように感じていますが、これと並行して行わなくてはならないのが人間教育(心の教育)です。これは、義理人情、仲間や家族への思いやりなど、人間同士のかかわり方の「TPO」を養うことにつながるのです。
 サッカーでも技術偏重傾向に陥ってしまうかもしれませんが、サッカー選手はロボットではなく人だということを忘れてはなりません。技術と同様に、サッカーを通じた人間形成をサポートすることが必要です。また、それこそが社会で求められるスポーツの役割かもしれません。このようなことを踏まえた上で、子どもたちと接しなくてはならないと思います。
 そのために重要になるのが、これまで何度となく言ってきた、グラスルーツのコーチの役割です。ユース年代やプロ選手になってから、こうした能力を培うのでは遅いのです。幼少期に携わったコーチや大人の影響こそが、のちの人生の土台となるのだと思います。ジュニアコーチの姿勢こそが、日本サッカーの将来を担っているともいえます。

2024.07.21 by Jun Hirano / Funroots



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