vol.13 信頼関係の構築


ジュニアコーチに必要な要素

 子どもたちとかかわる上でキーワードとなるのは、「子どもたちが自分で問題解決できる能力を育むこと」です。そのためには、幼少期にさまざまな経験を積む必要があります。
 コーチは「自分の型」に選手をはめることだけには気を付けなくてはなりません。特に低年齢の子どもたちはより感受性が強いので、この点は絶対に注意を払わなければいけません。裏を返せば、「コーチの指導に『絶対』はない」という考えを持つことが大切でしょう。
 そのためにコーチは何をすればよいのか。まずは、コーチが子どもたちを課題に縛り付けてはいけないということです。課題に縛り付けるのではなく、現実的に達成可能な高い要求をすることが、子どもたちの自意識を高めることにつながるのです。このような関りを保つためには「コーチとしての度量」が求められます。
 では、「コーチとしての度量」とは何を指すのでしょうか。街クラブのコーチの仕事を見てみると、もしかしたらプロチームのコーチよりも仕事量が多いかもしれません。というのも、指導現場からクラブのマネジメント、リクルート、グラウンドの手配まで、すべてをコーチ自身が行わなくてはならないケースが多いからです。そしてなによりも本業になる他の仕事があるからです。
 私も地域のクラブチームで指導していた時、指導現場だけでなく、グラウンド確保、財務管理、スタッフ調整、試合調整、選手のデータ管理、リクルートなど、すべての事務手続きを行っていました。本当に時間がいくらあっても足りないと感じたものです。
 しかし、このような経験が今の私の糧となっているのは間違いありません。指導現場だけでなく、クラブマネジメントの裏側まで広い視点で見られるようになったのは大きな収穫です。
 それに伴って、指導の幅も広がった気がします。子どもたちが多くの経験を積み、見識を広げるためには、コーチたちもそれなりの経験を積むことが必要なのです。
 下図はジュニアコーチの柱となる能力(要素)です。コーチング、プランニング、マネジメント、プロデュースという4つの要素を兼ね備えることで、広い視野を持って子供たちを見守ることができます。
 そのような意味でも、ジュニア年代にかかわるコーチは、単なる「サッカーコーチ」ではなく、「トータルコーディネーター」としての役割を担う必要があるでしょう。


コーチの姿勢を支える、好奇心、観察力、知識

 海外の一流コーチなどと話をしていると、その好奇心にはいつも驚かされるものです。以前、マンチェスター・ユナイテッドのトップチームも指導しているコーチと話す機会があったのですが、彼は私たちの意見を真摯に聞いてくれました。日本の伝統文化や武道の話になったときには、それらをどのように指導している選手たちに伝えたらよいか、何が指導に生かせるかを模索していました。彼のこれまでの経験だけでも素晴らしいのに、このような向上心には敬意を払いました。経験を重ねるほど、どうしても経験至上主義になりがちですが、常に初心を忘れない心構えを持ち続けなくてはなりません。
 また、これは上図の「コーチング」のなかに含まれますが、コーチに欠かせない能力として挙げられるのが「観察力」です。子どもたちの特徴はさまざまですが、常に自分の受け持っている子どもたちの状態を把握しておかなくてはなりません。
 コーチにとって本当の「勝負」となる仕事時間は、10秒から15秒くらいです。必ず子どもたちから「メッセージ」が発信されるタイミングがありますが、コーチがそのメッセージに気付くか否かが一番大切なのです。

 コーチがそのメッセージを感じ取り、すぐさま何かを伝えられれば、その子どもはサッカー選手としてはもちろん、人間としてもステップアップをすることができるのです。逆に、そのチャンスを逃してしまうと、最悪のケースでは、コーチとの信頼関係が崩れてしまう可能性さえあります。
 このような一瞬の状況を把握するためにも、コーチの観察力が必要となってくるのです。ただし、この観察力を身に付けるためには、知識、経験、そして感性が必要となってきます。
 サッカーコーチである以上、サッカーの知識はしっかりと持たなくてはいけないでしょう。そのなかの1つとして、純粋な「知識」ではありませんが、「ゲームを読む力」は外すことができないくらい大切なものと考えています。ゲームの現象の変化をしっかりととらえ、子どもたちがどの状況にあるのかを理解することです。その状況を正しく把握できれば、子どもたちの能力を見極めながら、現実的に達成可能な高い要求ができると思います。
 そして、要求に見合った計画を立てて実践(トレーニング)に移すことで、下図のようなコーチングにおける良い流れが構築されていくのだと思います。

 これにより、子どもたちの評価基準も明確に持てるのではないでしょうか(現状把握することで新たな目標が設定できます)。
 話がそれてしまいましたが、サッカーの知識だけでなく子どもたちの身体的な発育・発達の特徴を把握することも大切です。これは運動生理学やスポーツ医学の知識になりますが、まずは全般的な年代ごとの特徴を押さえることが必要でしょう。もちろん個々の差は生じますが、それぞれの年代のトレーナビリティー(トレーニングによって伸びる能力や要素)を把握します。このトレーナビリティーを把握することで、それぞれの年代に応じたトレーニング効果を得られるのです。
 例えば、ジュニア年代であれば、コーディネーション能力が最も高まる時期です。この時期に、さまざまな運動経験を積むことによって、技術習得の幅を広げる結果にもつながります。
 次にメンタル面です。これは心理学や発育心理学の分野に関連があります。こうした分野の知識に触れることで、子どもたちとのかかわり方に対して、これまで感覚的だったものが意識的に把握することができるでしょう。
 これも子どもたちの年代や成育環境によってばらつきがありますが、それぞれの状況に応じたコミュニケーションスキルを獲得することは、信頼関係を構築する上でも重要なことです。さらに、子どもたちの認知能力に応じたコーチング能力(声のかけ方)などにもつながるのです。
 以上のような要素は、知識として記憶することも大切ですが、しっかりと解釈をして自分自身で理解する必要があります。しっかりと理解をすることで、子どもたちとの接し方にも変化が生まれてくると思います

2024.08.10 by Jun Hirano / Funroots



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